受任通知の意義及び効果

債務者から債務整理を受任した場合、まず初めに各債権者に対して受任の事実を通知するとともに、取引経過の開示要求を含む債権届出の要請を行うことになる。
この書面を、一般に「受任通知」という。
貸金業法21条1項9号により、弁護士等が受任通知を貸金業者(無登録業者を含む)に行えば、貸金業者の直接の取立行為は禁止され、これに違反した場合は同法47条の3により2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又はこれらが併科される。
また、業務改善命令(同法24条の6の3)や業務の停止、登録の取消し(同法24条の6の4)といった行政処分の対象になる。
さらには、貸金業者が受任通知受領後に債務者に対して直接取立てを行う行為は、債務者や受任弁護士等に対する不法行為となり、慰謝料が発生するとの裁判例がある。
このような刑事、行政及び民事の各規定により、受任通知を受け取った貸金業者は債務者本人に対する取立てを中止し、以後は受任弁護士等を窓口として交渉が進むのが通常である。
債務者は、弁護士等に相談する時点で、債権者からの度重なる請求行為のため日常生活に支障を来たしてしるケースも多く、弁護士等に依頼することで初めて通常の社会生活を取り戻し、経済的な更生へ向けての第一歩を踏み出すことが可能となる。
そういった意味で、受任通知は受任後可及的速やかに発送するのが原則である。
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また、任意整理を進めていくうえで、利息制限法に基づく引き直し計算を行って債務総額を確定することが欠かせない。
そのための最初の取引経過の開示要求という意味で、受任通知の発送はすべての手続の第一歩となる。
後日取引経過が開示されない場合に慰謝料請求を行うときは、まず受任通知において取引経過の開示請求を行ったことが基礎となる。
以上のとおり、受任通知の意義、効果は非常に大きいものである。

受任通知作成にあたって弁護士等が注意すべき点

受任通知作成にあたってば、以下の各点の注意が必要である。
債権者によって受任通知の記載内容は若干異なる。
通常の貸金業者の場合は、債務者の表示(住所(借入時の住所が現在と異なる場合は当時の住所も記載する)、名前、名前の読み及び生年月日)、受任弁護士等の表示、受任した旨の記載、直接の取立てを差し控えることの要請文及び取引経過開示の要請文が骨子となる。
これに対し、債権者がヤミ金業者など高利業者であって、貸付け自体が貸金業法42条もしくは民法90条により無効であり、不法原因給付(民708条)として受領した金員の返還を拒否すべきケースの場合は、貸付けが無効であること及び相手方の給付が不法原因給付であり受領した金員については返還しないことを記載することになる。
送付は原則として普通郵便でかまわない。
債務者本人に対する直接の取立てを直ちにやめさせたい場合など、早急な通知を必要とするときはファクシミリによる方法もある(なお、郵便に比べてファクシミリの方が簡易・迅速かつ送付時期が明確となるのでよいとの意見もある。ただし、一部債権者からは原本の郵送を要求されることがある)。
受任通知の事実を後に明確に立証する必要がある場合に限って内容証明郵便を利用すればよい。
受任通知を消滅時効の中断事由とされないための配慮として、受任通知が債務承認(民147条3号)に当たらない旨の記載をすべきであるという意見もある。
また、過払金が発生する場合に備えて、予め受任通知において、過払金の返還を請求する旨付記しておくとよい、との意見がある。
債務整理の方針を記載するか否かはケース・バイ・ケースであるが、記載するメリットとしては、債権者からの債務整理方針の照会にいちいち対応する手間が省けるということがあげられる。
債権者に公正証書用の委任状を取られているおそれがある場合は、かかる委任状徴求行為自体が貸金業法20条1項に違反することを指摘する。
事業者の債務整理などの場合で、債権者に債権譲渡通知書を取られているおそれのある場合は、債務者から詳しく事情を聞いたうえ、無効もしくは撤回する旨の文言を記載すべきである。
もっとも、そのような文言を記載したとしても、債権者側が債権譲渡通知書を現実に各取引先に発送した場合には、取引先から債務者に対する支払が停止される(取引先が供託を行ったり、単に支払わなかったりする)ことが考えられる。
このような場合は、別途取引先に対する文書の送付が必要となるが、即時に売掛金を回収する効果は必ずしも期待できない。
よって、そのようなおそれのある事案において任意整理による事業継続を企図する場合は、受任通知発送以降の事業計画を立てるにあたり、当面現存する売掛金の回収を期待せずに事業継続する方策を検討しておく必要がある。
債権者に開示させる内容を特定するため、必要項目を設げた債権調査票を入れるとよい場合がある。
特に、債権者に個人がいる場合は弁護士等からの照会に慣れていないことが多いので、債権調査票を入れる必要性が高い。
受任通知の発送とともにクレジットカード、ローンカード等の返却を行うと、郵送の二度手間を省くことができる。
すべてのカードのコピーをとったうえ、ハサミで裁断して返却する。
債権者の住所・連絡先については、依頼者が相談に来る際にできる限り一覧表にまとめたうえ来所するよう指示するとよい。
依頼者が住所・連絡先を知らない登録業者についてはインターネット上で調査することが可能である。
大手金融業者の場合は自社のホームページを開設していることがほとんどなので、これを利用すれば各支店の住所・連絡先が判明する。
以上に対し、ヤミ金業者の場合は、電話番号が判明しているほかは、住所などの一切が不明なことが多い。
この場合は、郵送による通知にこだわらず、相手方連絡先に対する架電、ファクシミリなどあらゆる方法で受任の事実を通知すべく努力する。
もちろん、架電の際には少しでも相手方を特定できる情報を聞き出すよう努めることが肝要である。
ところで、金融業者以外の一般の債権者に受任通知を送付する際には、金融業者宛の書式とは別なものを準備することが必要な場合もある。
一般の債権者は、債務者の債務整理に弁護士等が介入する事態に必ずしも慣れていないことや、法的に直接請求が禁止されていないなどの問題もあることから、現状を十分に理解してもらい、今後の債務整理への協力が得られるよう配慮することが必要である。
特に、債務者が事業を存続する場合で、当該債権者の協力が不可欠なときには、単に書面で通知を送るだけでなく、面談等により事情説明を行うことが必要な場合もあろう。
任意整理においては、住宅ローンの支払を約定どおり継続しつつ、他の一般債権の返済期限の繰延べを行う目的で受任することがある。
この場合、通常の債務整理の受任通知ではなく、引き直し計算後の債務を支払うために取引経過の開示を求める趣旨の通知を出すことで、信用情報への登録を避け、住宅ローンについて期限の利益喪失などの不利益を回避する方がよいとの考え方がある。
ただし、そのような記載方法をとったとしても延滞をすればそのことが信層盾報に登録されるし、実際に代理人側で行う作業は債務整理と変わらないのであるから、債権者が信層贋報への登録を行わないという保証はない。
通常の債務整理の受任通知を送付しても、住宅ローンに関する信用に支障がでないケースも多々あることから、上記特別の通知を行う意義がどの程度あるかは不明である。
結論として、いかなる通知方法をとろうとも、住宅ロ―ン債権者に債務整理の事実が伝わる可能性があることを想定しておくことが必要である。
債務者本人には事前にその旨の説明を行っておく。
仮に債務整理の事実が知れたとして乱住宅ロ―ン債権者に対しては約定どおりの返済を行うのであるから(約定で認められる範囲で繰延べをすることも含む)、一括請求をするメリットがないことを住宅ローン債権者に説明し、約定どおりの返済に了解を得るようめるべきである。
最後に非常に基本的かつ重要なことであるが、受任通知発送にあたり、必ず債務者本人と面談して債務者の委任の意思を確認することを忘れてはならない。
任意整理は、債務者情報について信用情報機関のブラックリストに掲載されるなどのデメリットが存在するから、紹介者からの情報のみで受任通知を発送することのないよう、注意が必要である。

受任通知発送時に依頼者に対して注意・指導すべき点

受任通知を送付することで、貸金業者から債務者本人に対する取立ては通常止まるが、受任通知が債権者に届くまでにタイムラグがある可能性があるので、債権者から連絡があった場合の対応を債務者に指導しておく必要がある。
具体的には、既に弁護士等に依頼したこと、弁護士等から債権者と直接話をしてはならない旨指示されていること、よって今後連絡等はすべて弁護士等に対して行われたいこと、を回答するよう指導する。
原則として債務者本人が債権者と話をするメリットはないので、すべての債権者に上記の回答を行うよう指導することになる(例外的な場面として、事業者の任意整理の場合で事業継続を企図するケースなどがあろう。この場合は、特定の債権者から債務整理への協力を得るため、債務者と弁護士等が協力して当該債権者の説得にあたらなければならないこともある)。
既に直接請求がなされている場合や弁済期が迫っており受任通知到達前の直接請求が避けられない場合には、電話やファクシミリなどで債権者に受任の事実を伝えることが必要である。
ヤミ金業者等が直接請求を行ってくるおそれがある場合は、直接面談する必要がないことを債務者によく理解させる。
債務者の電話番号を変えるなどの対応も検討する。
職場に対する電話攻撃が予想される場合には、職場の上司にあらかじめ事情を説明しておくよう指導することも必要である(具体的には、弁護士等に依頼して適正に解決すべく手続を進めており、しばらく迷惑をかける可能性があるが、いずれ解決するので了承願いたい旨伝えることになろう)。
債務者によっては、職場に知られると困るなどと述べる場合もあるが、違法なヤミ金業者等が債権者に存在する場合に、債務者への直接請求を100パーセント回避することは、任意整理に限らずいかなる債務整理の方法によっても不可能である。
今戦えば必ず解決できること、今戦わなくてもいつかは戦わざるを得ないことを十分説明して債務者本人を納得させ、必要に応じて債務者に協力して職場の理解を得るよう努めなければならない。
給与や年金が債権者である銀行の債務者名義口座に振り込まれる場合は、口座凍結などにより引き降ろせなくなることを防止するため、振込先の変更を行う必要がある。
変更が間に合わない場合は、銀行宛に口座解約もしくは支払要求の通知を行うことで、振込みを防いだり、引出しが可能となるケースがある。
債権者への支払が銀行口座からの自動引落しによる場合、受任通知を発送しても自動引落しは止まらないので、仮に引落し口座にいくばくかの預金があるときは必ず引き降ろすよう指示する。
悪質な業者からダイレクトメールなどで融資の案内が届くことがあるが、決して応じないよう債務者を指導する。
受任通知発送後和解案提示までしばらくの期間があるので、和解案作成の資料となる現在の家計の状況などを債務者にまとめさせたり、毎月一定額を送金させて弁済原資を形成させるなど、債務者に時間を有効利用させるべきである。
一部債務者には、債権者からの請求が止まったことで既に事態が解決されたかのように錯覚する者もいるが、上記作業をさせることはそのような錯覚を防止することにも役立つ。

受任通知発送後の貸金業者への対応

受任通知発送後、債権者から、方針の確認や債権者数・債務額の間合せがなされる場合があるが、必要に応じて情報を開示する。
受任弁護士等には法的な意味での情報開示義務があるとはいえないから、就業状況、財産状況について債権者に知られていない場合は、弁護士等の側から進んで開示しないように注意しなければならない。
もっとも事実に反する情報を開示してぱならないことはいうまでもないし、債権者からの問合せに全く対応せず、放置することもいけない(債権者からの請求で、債権者対応を行わなかったことを理由に受任弁護士が懲戒となったケースがある)。
また、債権届出を済ませた債権者から早急に和解案を提示するよう要求されることがあるが、和解案は全体の債務処理方針が決定しない限り提案すべきでないから、安易に債権者の要求に応じて一部の債権者だけに和解案を提示しないように注意しなければならない。
もっとも、和解案が提示できるにもかかわらず、又は和解案が提示できないことが確定したにもかかわらず、むやみに長期間手続を停滞させた場合には懲戒を申し立てられるおそれもあるから、注意が必要である。

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